要介護者の体位交換

介護においては、要介護者(利用者)の残存機能(残っている機能)や、
隠れている機能を活用しながら介護を行います。

 

なぜなら、使うことができる機能を使わないでいると、
機能が低下してしまうからです。

 

生活不活発病(廃用症候群)に注意

 

生活が不活発になると、それが原因で、
心身の機能が低下してしまいます。

 

これを「生活不活発病(廃用症候群)」と言います。

 

生活不活発病による弊害には、知的活動低下、
心配機能低下、関節の拘縮、便秘、筋萎縮、骨萎縮、褥瘡などがあります。

 

筋萎縮とは、長い間臥床していることにより、
筋肉を構成する窒素や硫黄、カリウム等が尿中に排泄され、
筋力が低下するものです。

 

一週間の安静では、10〜15%の筋力が低下するといわれ、
長期臥床は筋萎縮の原因になります。

 

せっかく使える機能が残っているのに、
その機能を使わないでいると、
今まで自分でできていたことができなくなってしまい、
様々な弊害が出てきます。

 

介護従事者は、要介護者の尊厳を守りながら、
生活不活発病から脱却し、身体的、精神的、社会的に
自立した生活をすることができるように、
生活機能(生命・生活・人生)全体を向上させていくように
サポートすることが必要です。

 

介護予防が大切

 

介護予防は、生活が不活発になることによる
心身の機能の低下を防ぐ事を目的としています。

 

もう少し具体的に言うと、
身体を動かしたり、外出をしたり、
自立した心身の維持に努めることにより、
要介護状態にならないようにすることが、「介護予防」です。

 

老後を健やかに過ごすためには、
筋力トレーニングをすること、転倒防止運動を行うことなど、
介護予防の実践がとても大切です。

 

ボディメカニクスとは

 

ボディメカニクスは、介護従事者が自分自身の腰を守ることができ、
利用者(要介護者)の負担も軽くすることができます。

 

私たちヒトの運動機能は、神経系、骨格系、関節系、筋系が互いに影響し合っています。

 

そのどれかが支障をきたすと、正常な運動ができなくなります。

 

このような相互関係を総称し、ボディメカニクスといいます。

 

ボディメカニクスを理解し、それを活用する事によって、
小さな力で大きな効果をあげることができ、
いろいろな動作を円滑に行う事ができます。

 

ボディメカニクスの原理と活用法

 

(1) 支持基底面を広くする

 

  身体を支持する面積のことを、「支持基底面」といいます。
  足を開き、支持基底面のなかに重心を置くようにすれば、身体が安定します。

 

  *足を閉じて立っている状態に比べて、肩幅に開いたときや、
  前後にずらしたときのほうが、基底面が広くなるので、
  より身体が安定するようになります。

 

(2) 重心を低くする

 

  重心とは物体の重さの中止のことです。
  ヒトの立位での重心は、骨盤内で、仙骨のやや前方、
 第2仙骨の高さ(へその下部あたり)になります。

 

  膝を曲げて、中腰の姿勢を避けることが、
 重心を低くするということです。

 

(3) 利用者に近づく

 

  お互いが近づくことで、利用者の重心が介護者の基底面のなかに入り、
 動作を安定させることができます。

 

(4) 身体をねじらない

 

  身体をねじると、腰痛の原因になります。」

 

  身体をねじらないようにすれば、腰と肩を平行に保つ事ができ予防できます。

 

(5) 大きい筋群を使う

 

  大きい筋群には、やはりそれなりの大きな力があります。

 

  また、一つの筋群を使うのではなく、上腕筋、腹筋、背筋、大腿筋など、
 身体全体の筋群を使えば、より大きな力を発揮することができます。

 

(6) 身体を小さくまとめる

 

  大きなものよりも、小さなもののほうが扱いやすいですし、
 摩擦が少なくなり、力が少なくて済みます。

 

  ヒトの身体も、たとえば腕を組んでもらうなどすると、
 少ない力で動かすことが出来ます。

 

(7) 水平移動する

 

  骨盤を安定させて、水平移動させるようにします。

 

  水平に移動することは、重心の高さが変わらないので、
 持ち上げるよりも楽です。

 

(8) てこの原理を活用する

 

  肘や膝を支点とし、てこの原理を活用し、応用する事によって、
 動作が楽になります。

 

  動作は支点を軸にして動きが起こるので、
 動作の支点はどこにあるのかという目安をつけておくと良いでしょう。

 

(9) ベクトルの法則を用いる

 

  ベクトルの法則とは、
 「互いの拮抗する力が等しければ、身体は動かない。」
 「互いの拮抗する力がそれぞれ斜め方向に加わるとき、
 合成された力と方向が得られる。」
 「同じ方向への力は、互いの力は小さくても、
 それぞれの力が加わり、大きな力となる。」
 というものです。

 

体位変換のときは、寝返る方の腕を先に胸の上で組ませる

 

利用者(要介護者)の寝返りを介助するときは、
寝返る方の腕を先に胸の上で組ませます。

 

こうする事によって、骨盤が回転し、
次いで肩が上がってくる自然な流れで、スムーズに動かすことが出来ます。

 

寝返りの介助のとき、体重がかかって動かしづらい部分としては、
肩甲骨、骨盤帯が挙げられます。

 

その動きにくい部分の回転運動を、容易に行う事ができるよう、
腕をコンパクトに組むことで、動きがスムーズになります。

 

また、膝を立てたり、下肢を交差し、
膝から倒して骨盤を回転させながら肩を引揚げて寝返りをさせます。

 

麻痺がある場合の体位変換

 

麻痺がある要介護者の体位変換は、さらに動きづらいので、
麻痺側を肘よりも上の健側の手で持ち、
肩甲骨が回転しやすいように引きます。

 

健側の下肢を麻痺側の下肢の下に入れることにより、
骨盤が浮きやすくなるので、回転させやすくなります。

 

首を少し持ち上げて、顔を寝返る方向に向けると、
要介護者も心の準備ができ、首は軽度前屈で、後方にそらすことなく、
安全に、また、容易に寝返りをすることができます。

 

安楽な側臥位とは

 

寝返りをさせた後、腸骨を後に引いて、
「く」の字の型を取ってもらうようにします。

 

こうすることで、安定した側臥位になることができ、
要介護者も安楽な姿勢をとれます。

 

クッションや枕を用いて、要介護者に確認をとりながら、
安楽な側臥位をとるようにサポートしましょう。

 

また、肘や膝を曲げると、支持基底面が広くなるので、
さらに身体を安定して支えることができ、安楽になります。

 

トルクの原理

 

体位変換を行うとき、トルクの原理を使います。

 

トルクの原理とは、回転軸から離れているほど、
物体を回転させるのに小さな力で済むというもので、
要介護者の膝を高く立てることで、最小の力で膝を倒すことができ、
寝返りをさせやすくなります。

 

片麻痺のある要介護者を側臥位にする場合

 

片麻痺のある要介護者を側臥位にする場合、
麻痺のあるほうを下にしてはいけません。

 

なぜなら、循環障害のある患側を下にしてしまうと、
さらに循環障害を生じ、悪影響を及ぼしてしまうからです。

 

・麻痺

 

麻痺は、脳神経から筋肉、骨にいたる伝達機能のどこかに
障害が生じることによって起きるものです。

 

 運動麻痺は、運動機能が障害されている状態です。

 

 感覚麻痺は、温覚や冷覚、痛覚、触覚などの知覚機能が障害されている状態です。

 

・側臥位

 

側臥位とは、横向きに寝ている状態の体位のことです。

 

左を向いた場合は、「左側臥位」といいます。

 

側臥位の時は、腸骨を後方に引き「く」の字にすると、
安定します。

 

片麻痺のある要介護者を側臥位にする場合は、
麻痺側は必ず上にし、圧力がかかりにくくなるようにすることが必要です。

 

また、片麻痺のある場合、良肢位を保つようにします。

 

良肢位とは、「機能肢位」・「便宜肢位」ともいい、
関節が仮にその位置で動かなくなっても、
ADL(日常生活)に及ぼす傷害が、
最も少ない肢位のことをいいます。

 

片麻痺がある場合も、日常生活動作への影響が最小限になるようにする必要があるため、
良肢位を保つようにします。